Uguistyle最終回~手を動かす意味


手触りのいい抹茶椀。

模様も素敵。

手にとるふりをしながら確認したいつもより高いお値段は、

今の自分から一段上がれる階段のような気がした。


30歳を過ぎて

年齢と一人時間が比例するように増えてくると

背伸びして入るお店、ギャラリー、セレクトショップも増えていく。

そういうところに集まってくる少しだけ世代が上の人たち。


小さな銀細工のブローチ

エナメルのポーチ

ラインストーンのついたペン

リネンのワイドパンツ

草木染めのスカーフ


いちいち細かいところが洒落ていて、

どうやったら仲良くなれるのか。

話しかける切り口がなくていつもじれったく思うのだけど

そんな気負いをよそに彼女たちは惜しげもなく色々なことを教えてくれた。



絵がうまく描けないと呟くと

カフェのテーブルにあった花瓶を手元に引き寄せて

茎のたどり方を教えてくれたり




植物のような模様のカードが素敵でどうやって描いてるのか聞くと

次に会ったときに額に入れてプレゼントしてくれた。

「これは型染めというのよ」


何も知らなかったあの頃。


何かの作品展を覗いたある日、談笑している人たちの中で

一人椅子に座って手のひらのものを見つめている、その日初めて会う人。

何をしているのか聞くと

「どうやったらこれを自分で作れるかなぁと思って。」

これを自分で作るなんて。

作ろうと思うなんて。

考えるだけで途方にくれて彼女たちと自分の距離をものすごく遠く感じた瞬間。


今でもたまに思い出すあの無力感。

とても追いつけない。

どうやったら彼女たちのようになれるのか……。


いつの間にか行動範囲が変化して

カフェにもギャラリーにも行かなくなり

今度は教室通いにうつつをぬかす。


トールペイント

パッチワーク

水彩画

ステンドグラス

編み物

紅茶教室

羊毛

篆刻

フラワーアレンジメント

刺繍

習字

銀細工

パン

フランス菓子

デコパージュ

切り絵

洋裁

ビーズ


半年続く教室もあれば、その日の午前中で終わるものもあり

お免状をくれるところや1日だけのワークショップ。

とにかく興味のあるものは手当たり次第に参加して

自分の手から何かが作り出されることが楽しくて仕方がなかった。



景色を眺める

人と会う

美術館に行く

骨董市に行く

五感が刺激されると今は無性に何かを作りたくなる。

頭に描いたものが

自分の知っていることや持っているものを総動員して形になっていく

ああ、なんて楽しいのかしら



ついこの前立ち寄ったお店で一目惚れして買ってきたお人形。

家に帰ってそれを手にしてどうやったら作れるかじっと考えて

ふっと思い出した。

あの、一人でうつむいて考えてた彼女のことを。


あぁ、そうなんだ。

ひとつずつ、1日ずつ、少しずつ好きなものを追いかけて

手に取り、愛でて、手でつくる、その積み重ねた時間。

それが彼女たちを作り上げていたのだと。

だとしたら、今度は私が惜しげもなく渡せるバトンはないだろうか。

彼女たちから受け取ったバトンをあの頃の「私」に繋いでいきたい。


手を動かす理由。

バトンを繋ぎながら手を動かす意味。

今までは意味なんてないと思っていたけれど

理由も意味も自分から作ればいい。


あなたへ

バトンを

繋ぎたい。


*********


Uguistyle最後となりました。

テーマの中にある「懐かしい乙女心」はインコさんと考えた表現でした。

たくさんの知らない自分を引き出してくれた彼女に心から感謝のことばを送ります。


みなさま、

読んでくださりありがとうございました。





text & photo by uguisu 

uguisuがお届けする、はちみつバードの身近な生活スタイル。
懐かしい乙女心。Uguistyle。


はちみつバード

わたしたちの日常はふと、 ノスタルジックなファンタジアに彩られる。 わたしだけが選べる、わたしだけのかわいい日常。 ことばと。写真と。

4コメント

  • 1000 / 1000

  • uguisu

    2021.12.24 16:38

    @スイここで自分の好きを発信してるつもりが、いつの間にか自分を振り返る場所にもなっていて、それもこれもインコさんのうまい誘導のおかげ ……スイさんには実感してわかってもらえそう。ドキドキもあったけどたくさん発見と出会いがありましたよね。また新しい次があったら一緒に盛り立てましょうね。呼ばれなくても笑。こうしてここにいれたことに感謝です。スイさん、ありがとう!
  • スイ

    2021.12.24 14:59

    「好き」の積み重ねとほろ苦い無力感の経験が今のuguisuさんを作っていたんですね。 全く別のベクトルなのにuguisuさんにとってはそのどれもがなくてはならない通過点だったのかなとも。 興味の赴くままに「好き」を貫くuguisuさん。 新しい誰かと出会いたい、そんな誰かと誰かをくっつけて新しい何かを生み出して欲しいだなんて。 uguisuさんのライフワークは唯一無二。 素直で素敵でチャーミング。 憧れるけど絶対真似できない存在のuguisuさんの原点。 それを最後のエッセイで知ることができてよかったです!
  • uguisu

    2021.12.24 14:33

    @バニラ心のひだが多い人ほど酸いも甘いも味わって、ますますつくるものの世界ができていく。若かりし時にはそんな余韻もわからなくてたくさんおバカをしてきました。たとえ偉そうだと言われても、自分が持っているものをバトンしたい気持ちで今いっぱいです。ここまで足を運んでくれてありがとう。バトン、受け取ってください。