Sui's standards vol.4


リーフパイと紅茶


今で言えばママ友でしょうか。

姉の同級生のお母さんが自宅で開くお菓子教室に

母は幼稚園にあがる前の小さいわたしを連れて参加していました。


そのときの記憶を手繰ると必ず蘇ってくるのは

クッキー生地に練りこまれたバターの甘い香りと

当時にしては珍しかったリビングキッチンに差し込む明るい日差し。


多分色々なお菓子を作っていたと思うんですが、

唯一記憶に残っているのはリーフパイ。

葉っぱの形をしたステンレスの型を

薄く伸ばしたクッキー生地にサクりとはめてはペロりと取り上げる。


拙いながらもわたしも1枚だけお手伝いさせてもらい

オーブンシートにずらりと並んだ葉っぱの群れを眺めて

嬉しかったのを覚えています。


***


リーフパイが焼きあがると

今度は紅茶を準備してお茶会が始まります。

いつもは母がわたし用に砂糖を入れた甘い紅茶を用意してくれるのですが

その日は準備に忙しい母を気遣って

自分で甘くしてみようとシュガーポットから一人で砂糖を入れていきました。


1杯、2杯、、、。

でも、ちっとも甘くなりません。

気づけば5杯目。

わたしが首を傾げていると

隣に座っていた他のお母さんに

スイちゃん!お砂糖が紅茶の中で山盛りになってるわよ。と笑われました。


そう。

小さかったわたしは紅茶に入れた砂糖を

かき混ぜるということを知らなかったのです。


山盛りに砂糖が入った紅茶。

恥ずかしくて顔を真っ赤にしているわたし。

リーフパイと言えば山盛りの砂糖入りの紅茶を思い出すのです。


***


夫の母親が銀座ウェストのリーフパイが好きだと知ったのは

結婚後数年してからのこと。

新年の挨拶に持っていく品を

リーフパイにして欲しいと頼まれてからは、毎年恒例になりました。


義母の趣味はお菓子作りでした。

わたしが今でも覚えているのは手作りのフルーツバターケーキ。

あまりの美味しさに同じものを作ってみたくなり、

一度だけ義母に習ったことがあります。


夫は一人っ子な上に料理に興味もない人ですから

義母はわたしの申し出をかなり喜んでくれました。

当日行ってみると

材料から道具まで、準備万端に揃えられた状態でわたしを迎えてくれる

義母のにこやかな笑顔がありました。


こんな素敵なお菓子教室なら毎回通いたい。

そんな風に思っていたスタート時の自分が甘いことに気づくのは

粉をふるいに掛けバターを練る段階になってから。


「このくらいでいいですよね?」とわたしが聞くたびに

「まだまだ!もっと!」とゲキが飛ぶ

スパルタお菓子教室へと変貌していきました。


泣く泣く作ったフルーツバターケーキですが、それはやはり美味しく、

義母お気に入りのウェッジウッドのティーセットで入れてくれた紅茶との組み合わせはまた格別でした。

ですが、穏やかだった義母が激変したスパルタ教室の後ですから

なんとも複雑な心境で過ごしたのを覚えています。

多分義母も同じ気持ちだったかもしれません。


それ以来、一緒にお菓子を作ることもなくなり

紅茶のお供はもっぱら件のリーフパイ

ということになったのです。


***


そんな義母ですが、10年くらい前に思うように料理を作れなくなったと言って

愛用していたティーセットを全て譲ってくれました。

今は施設に入り緩やかで穏やかな日々を送っています。


***


今回の一枚は、義母のティーセットと銀座ウェストのリーフパイを小物として撮影しました。

今ではすっかり飾るだけになってしまったティーセットを

食器棚から引っ張り出して、記憶の中の情景を再現していたら、

子供時代のあの山盛りの砂糖が入った甘い記憶と、

義母とのほろ苦い思い出が蘇りなんだかこそばゆいような懐かしいような、

でも、もう戻ってこないその日々を思い少し感傷的にな気分になりました。


撮影を終えた後、

久しぶりに買ってきたリーフパイとマグカップで入れた紅茶を飲みながら

つくづく、そんなことを回想する年齢になってしまったんだなと

苦笑いしています。


スイ




text & photo by sui

はちみつバード

わたしたちの日常はふと、 ノスタルジックなファンタジアに彩られる。 わたしだけが選べる、わたしだけのかわいい日常。 ことばと。写真と。

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