Sui's standards vol.2


未完成の光景


思い描いた光景が完成するまで

あとどれくらいかかるのでしょう。


***


当初はコテコテのイメージしかなかった鉄道写真です。

「撮り鉄」という言葉もどこかおじさんチックで

ローカル線の撮影に行かない?と夫から誘われた時には

カフェでお茶するようなオシャレなお散歩写真に行きたいのにと

心の底では思っていました。

今だから呟ける話ですが。


***


夫の求める鉄道写真が

絶景の中にポツンと走る列車であると知ったのは

小湊鉄道という千葉のローカル線の撮影に行った時でした。


入念に下調べをした夫が満を持して向かったのは

満開の桜が咲く綺麗な駅舎、ではなく

遠くに鎮座する山の上。


雰囲気の良い駅舎で撮影したくて

ノロノロとふてくされて歩いているわたしに

「絶対こっちの方が感動するから!」と

半ば喧嘩ごしに連れて行かれた先に待っていたのは


田んぼが広がる山あいの駅舎と

くねくねと続く一本の線路

そして、その上をコトトンコトトンと小さく音を鳴らして通過していく

オモチャのような列車の走る光景でした。


まるで一枚の風景画を見ているようなそんな牧歌的な景色に

一瞬で鉄道写真のとりこになってしまいました。


***


北海道の鉄道写真に目覚めたのは

廃線のニュースをちらほらと聞くようになってから。

すっかり車社会になった現在

鉄道の利用客も減ってあとは廃線を待つだけの地域も。


これは今のうちに撮影に行かないと、と

一昨年、2週間ほどの休みが取れたのを機に

北海道を縦断する鉄旅を夫が企画しました。


絶景を求めて北は宗谷本線、南は函館、最東端の根室本線まで

地図とダイヤグラムを睨みつつ

ひたすら時間も体力もかけて撮り続けた2週間。


***


それでも

撮影できるチャンスは数時間に一度。


思い描いた構図を色々考えていても

実際列車が来ると動揺と感動がないまぜになってしまい

手元が狂ってしまう素人感。

天候の光の加減など運の要素も大きく

納得できる写真はほとんどありません。


冒頭の写真はそんなわたしの未完成の一枚。

たまたまこの場所で撮影していた

プロの写真家さんからレクチャーしていただき撮ったものです。


ここにギラリと光る列車の車体が映り込めば完成ですが

撮影のチャンスは2回のみ。

慌てている間にその2回も過ぎ去って行きました。


***


後日、その時の写真家さんが提供したという

ポスターを拝見した時の驚き。

やっぱり腕が良い人は違うねと

半ば諦め気味に夫に話したら


プロは同じ場所に何遍も何遍も通って

地形と天候を把握して

そこからさらに粘って粘って

やっと納得のいく光景を作り出すんだよ。

数回通った程度の俺たちじゃ何も撮れなくて当たり前。

と慰さめてくれました。


確かにあの時

夕暮れ迫る暗がりの中

帰り道が分からなくなったら大変と

慌てて帰り支度を始めるわたしたちに


「僕は後もう一本撮ってから帰ります。」

そう笑顔で話していたのを思い出しました。


***


わたしが完成した光景を撮れるのは

いつになることやら。

まずはまたあの場所を訪れることから

始めましょうか。





text & photo by sui

はちみつバード

わたしたちの日常はふと、 ノスタルジックなファンタジアに彩られる。 わたしだけが選べる、わたしだけのかわいい日常。 ことばと。写真と。

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