未完成の光景
思い描いた光景が完成するまで
あとどれくらいかかるのでしょう。
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当初はコテコテのイメージしかなかった鉄道写真です。
「撮り鉄」という言葉もどこかおじさんチックで
ローカル線の撮影に行かない?と夫から誘われた時には
カフェでお茶するようなオシャレなお散歩写真に行きたいのにと
心の底では思っていました。
今だから呟ける話ですが。
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夫の求める鉄道写真が
絶景の中にポツンと走る列車であると知ったのは
小湊鉄道という千葉のローカル線の撮影に行った時でした。
入念に下調べをした夫が満を持して向かったのは
満開の桜が咲く綺麗な駅舎、ではなく
遠くに鎮座する山の上。
雰囲気の良い駅舎で撮影したくて
ノロノロとふてくされて歩いているわたしに
「絶対こっちの方が感動するから!」と
半ば喧嘩ごしに連れて行かれた先に待っていたのは
田んぼが広がる山あいの駅舎と
くねくねと続く一本の線路
そして、その上をコトトンコトトンと小さく音を鳴らして通過していく
オモチャのような列車の走る光景でした。
まるで一枚の風景画を見ているようなそんな牧歌的な景色に
一瞬で鉄道写真のとりこになってしまいました。
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北海道の鉄道写真に目覚めたのは
廃線のニュースをちらほらと聞くようになってから。
すっかり車社会になった現在
鉄道の利用客も減ってあとは廃線を待つだけの地域も。
これは今のうちに撮影に行かないと、と
一昨年、2週間ほどの休みが取れたのを機に
北海道を縦断する鉄旅を夫が企画しました。
絶景を求めて北は宗谷本線、南は函館、最東端の根室本線まで
地図とダイヤグラムを睨みつつ
ひたすら時間も体力もかけて撮り続けた2週間。
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それでも
撮影できるチャンスは数時間に一度。
思い描いた構図を色々考えていても
実際列車が来ると動揺と感動がないまぜになってしまい
手元が狂ってしまう素人感。
天候の光の加減など運の要素も大きく
納得できる写真はほとんどありません。
冒頭の写真はそんなわたしの未完成の一枚。
たまたまこの場所で撮影していた
プロの写真家さんからレクチャーしていただき撮ったものです。
ここにギラリと光る列車の車体が映り込めば完成ですが
撮影のチャンスは2回のみ。
慌てている間にその2回も過ぎ去って行きました。
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後日、その時の写真家さんが提供したという
ポスターを拝見した時の驚き。
やっぱり腕が良い人は違うねと
半ば諦め気味に夫に話したら
プロは同じ場所に何遍も何遍も通って
地形と天候を把握して
そこからさらに粘って粘って
やっと納得のいく光景を作り出すんだよ。
数回通った程度の俺たちじゃ何も撮れなくて当たり前。
と慰さめてくれました。
確かにあの時
夕暮れ迫る暗がりの中
帰り道が分からなくなったら大変と
慌てて帰り支度を始めるわたしたちに
「僕は後もう一本撮ってから帰ります。」
そう笑顔で話していたのを思い出しました。
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わたしが完成した光景を撮れるのは
いつになることやら。
まずはまたあの場所を訪れることから
始めましょうか。
text & photo by sui
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