ふゆ子は冬に生まれたから、寒いのは好きなのだろうか。
雪のように白い肌のお前を思い出すよ。そしてストレートなお前を。
確かにあの一件があってから俺は吃音になった。しゃべらない子になった。
長い沈黙だった。まさしく、その話をしなければならないと思っていたんだよ。
いまはもう分かっているとは思うけど、
あの時のふゆ子は小さかったから、何が何だか分からないと思う。
俺だって何が何だか分からなかった。ただとんでもないことが起きたことは分かった。
ふゆ子はキョトンとしていたけど、小さい町だから大騒ぎになったんだ。
親戚だの何だのが大勢やってきて、コソコソ話したり、大声で怒鳴り有ったり、
大変な騒ぎだったよ。
俺はそんな大人たちの話を、縁側に座って背中で聴いていた。
それからしばらくして、ふゆ子にも俺にも忘れられない事件が起きたね。
もしかしたら、ふゆ子はそれを忘れようとしているのかも知れない。
そう思って、なかなか話しかけられなかったんだよ。
もうすぐクリスマスだな。
夏川さんは憶えているかい?
未亡人の夏川さん。
あの人がささやかなクリスマスを祝ってくれたよ。
本当は俺とお前は夏川さんが引き取ってくれることになってたんだけど
何故か俺だけになってふゆ子の親類が、お前を連れて行ってしまった。
そして、俺は一人ぼっちになった。
一人ぼっちで聴いていたクリスマスソングをふゆ子に贈る。
※ I Believe In Father Christmas - single by Greg Lake
[ふゆ子からツトムへ]
気温の変化が厳しくなって
きたけれど冬が苦手なツトムくん、風邪等こじらせていませんか。
※Innocent When You Dream (Barroom)-Tom Waits
考えてみると子供の頃の私たち俗にいう家族同様に濃密な時間を共有していたはずなのに…何故かクリスマスの日は一度も一緒にお祝いしたことがなかったね。
ふたりとも一人っ子だからかな、
毎年お互いの両親と過ごしていた記憶しかないのが不思議。
クリスマスは大切なことを想いだす日。
そんな想い出が、あの冬…
何の前触れもなく更新されなくなってしまいツトムくんもずい分と孤独に触れてきたみたいで。
…でもね、私 何故だか解らない変な確信だけは心の隅に残していたから、
ツトムくんとはどこかでまた繋がってくるだろうと。
そうして考えてきたから一人なのだと意識したことは殆どなかったよ。
手紙ひとつにしてもそう、
毎回必ず返信が来るものだと分かってる。
説明のしようのない詳細は省いてツトムくんはおそらく自分の中では永遠にそういう存在。だとしか言えない。
ただ、こちらからも声を掛けず終いのちょっとしたことは何度か…
私たちが離ればなれになってから十年くらい経ち、
夏川の叔母さんから電話がかかってきたことがあって。
ツトムくんがせっかく努力して入った大学を
卒業間近にして辞めると言い出したことを自分の息子のことみたいにとても心配してた。
その時、頭に浮かんだのが既に忘れかけていた…
脳内から抹消していた、うちのお父さんのあれこれ。ツトムくんはきっと
あの人のようにレールの上を進み続けるのが怖くなったのかも知れないと
その時叔母さんの声色から読み取りました。なのに、
けして逃れることの出来ない人生の上で
逃れることの出来ない対象に意味を見出だしてしまうとはね、直角定規のようなお父さんが。
日常に天使が潜んでいることを私はその時に初めて知ったような気がする。
from Kona
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*この作品はフィクションであり、実在の人物や団体などとは関係ありません。
text by reika & tsutomu
玲薫
精神的にファンタジー☆
眠れない夜には詩を編んだり映画を観たり..
好きな作品はビクトル・エリセのミツバチのささやき。。
藤本ツトム
32歳 血液型A型。 趣味 レイモンド・チャンドラーを読むこと。
劣悪な高校を卒業後、 凡庸な大学に入学。そして中退。
その後、都市を漂流する。
photo & edit by kona
kona
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